1. フスタート遺跡 2. データの見方 3. 参考文献

 フスタートは、アラブ軍がエジプト征服後に首都として築いたエジプト最初のイスラーム都市です。この都市はナイル川が分岐する地理上の要所に位置しており、行政機能が北方に移動し、10世紀の末にカイロが建設された後も引き続きエジプトのみならずイスラーム世界の中心の一つとして繁栄し、豊かな物質文化を育みました。しかし、14世紀後半に流行したペストなどの理由で町の大半が放棄されると、そのほとんどが廃墟となりました。
 20世紀になると、イスラーム考古学の重要な遺跡としてフスタート遺跡の考古学的な発掘調査が開始されます。1912年にエジプトのアラブ芸術博物館(現在のイスラーム芸術博物館)が最初の鍬入れをし、1964年からはアメリカ調査隊、1978年には早稲田大学によって組織された日本調査隊、1985年からフランス調査隊が発掘調査を開始しました。現在は遺跡を埋め立てる再開発計画が進められており、広大な遺跡を目にすることもできなくなってきております。
 日本調査隊が発掘地に選んだのは、現在アムル・モスクがある都市の中心部に最も近くて発掘可能な地区でした。建造物の度重なる増改築や廃墟となった以降に受けた層位の攪乱などがあるものの、イスラーム考古学者である川床睦夫がイスラーム史の中でのフスタートの位置づけを重要視してこの地区を選定しました。したがって、この地区から発見される遺構や遺物には、フスタート建設当初の7世紀から廃墟になる14世紀までの資料が含まれています。

①遺物種類

1)土器
 無釉の土製容器類。イスラーム土器とローマ・ビザンティン・コプト的伝統を継承する土器に分けられる。イスラーム土器は機能を重視して、A:食卓器、B:調理具、C:貯蔵・運搬、D:A・B・C以外、E:硬質小壺に分類しており、データベースの中ではクラスの項目で表示されている。ローマ・ビザンティン・コプト的伝統を継承する土器は、赤色磨研(Rで表示)、彩文、その他の装飾の3グループに分けられる。胎土には、ナイルのスィルト層から採集した粘土質の赤茶、良質で硬質な砂質のピンク、白色化を目指して陶土を混ぜ合わせた複合タイプなどがある。

2)フィルター
 壺の首部内部に透かし彫り装飾がある特殊な土器。大多数が無釉である。フィルター面は、基本的に円盤を首部の中に入れ込んだことで凹面となっているものと球体の胴部に首部を付けた後に施文して凸面になったものに大別される。胎土表記は土器に準じるが、ピンク胎土に類似した淡緑色をした緑が加わっている。

3)イスラーム陶器
 中東地域、主にエジプトで製作された施釉された陶器。様々な装飾技法や色調、文様のタイプが見られる。胎土表記は土器に準じる。

4)中国陶磁
 中国から輸入された磁器。白磁、青白磁、青磁、染付、褐釉などがある。

5)オイル・ランプ
 多くが施釉の陶製ランプ。ローマ・ビザンティンの系統をひく卵型、イスラーム期に入ってから発展した独特の器形、皿形、異形の四つのグループに大別できる。胎土表記は土器に準じる。釉の色調はマンセルの色調表の表記に基づいている。

6)ガラス器
 ガラス製容器類。ラスターやエナメルなどの絵付けやカット、器具などを用いた様々な装飾技法が施されている製品も存在している。

7)金属器・木器
 銅などの金属や木を材料とした容器類。点数は多くない。

8)コイン&グラス・ウェイト
 金貨、銀貨、銅貨、ガラス製の計量用ウェイトなどがこの分類に含まれるが、文字資料のため大部分がエジプトに保管されている。

9)装身具・化粧具・玩具類
 様々な素材で製作された腕輪、ビーズ、指輪、装飾ピンなどの装身具類、櫛、アイスティックなどの化粧具類、ゲーム用品、人形などの玩具類をまとめている。ガラス製の腕輪については、装飾技法によって、無装飾をA、捻りおよび巻き紐装飾をB、色ガラス紐で象嵌して表面を滑らかにした装飾をC、象嵌装飾の突出部を残した装飾をDとタイプ分類し、装飾の項目に表記した。

10)道具類
 金属や木、石などの素材で製作された釘や紡錘車、匙、ピン、臼、窯道具など様々な機能・形態をもつ道具類をまとめている。

11)建築材料
 建築の部材としての石モザイク、ストゥッコ製の壁面装飾、土管などが含まれている。

12)その他
 上記以外の出土遺物で、布製品や古代エジプトのウシャブティなどがある。

②遺物番号

各遺物に与えられた登録番号


③地区

地区はグリッド、ダッカ、ピットで表示される。遺構平面図(PDF)参照。

1)グリッド
 東西南北ラインに沿ってA~Iまで25㎡の大グリッドを組み、さらにその中を5㎡の25の小グリッドに分割している。冒頭のアルファベットが大グリッド、続く数字が小グリッドを示す。グリッド図(PDF)参照。

2)ダッカ
 残存する建築構造物の床面を形成する三和土(たたき、アラビア語でダッカ)で、層序が確認できる。ダッカ分布図(PDF)参照。

3)ピット
 岩盤に掘り込まれた給排水用の穴。ピット連結する溝も存在する。ピット分布図および平面図・断面図(PDF1)(PDF2)参照。

④層位

 堆積層の厚さは、岩盤から地表までで3メートルに及ぶ地点がある。ほぼその中間に遺物を含まない層があり、その上層をⅠ層、下層をⅡ層としている。Ⅱ層には遺構、ダッカ、ピットが含まれている。遺跡断面図(PDF1)(PDF2)参照(セクションラインはダッカ分布図(PDF)参照)。また、ダッカとピットには構築層が確認できることからそれぞれの番号を記載した。


⑤図版番号

 発掘報告書に掲載されている図版番号を記した。報告書の図版には実測図版と写真図版がある。また、報告書未掲載品に関しては、遺物が掲載されているカタログ等の掲載番号を示した。

櫻井清彦・川床睦夫編『エジプト・イスラーム都市アル=フスタート遺跡発掘調査1978~1985年』早稲田大学出版部、1992

また、さらに情報が必要な場合は、下記から関連刊行物や論文一覧を参照できます。

『日本調査隊によるエジプトおよび紅海地域におけるイスラーム考古学調査・研究関連文献目録』 共同利用・共同研究拠点早稲田大学イスラーム地域研究機構、2013

公益財団法人東洋文庫 日本における中東研究文献DB